コンラッド 「闇の奥」 4 噂のクルツ

マーロウや中央出張所支配人たちは、船で河を遡り、クルツが支配する奥地出張所へとたどり着いた。途中、船は河岸の叢林から矢で攻撃してくる原住民たちに襲われ死者まで出す犠牲を出しての到達であった。

奥地出張所では、クルツに心酔するロシア人青年が待ち構えていて、マーロウたちを出迎えてくれた。ロシアの青年は、病で小屋に伏せているクルツについて語り出す。彼の語るクルツ像は、恋愛や思想を語る高邁な姿から、人間性が荒廃して自らの欲望によって行動する姿にまで及ぶ。クルツが精神の荒廃へと至った過程は具体的には書かれていないのだが、クルツに関する断片的な描写を通して、彼の精神の足跡が知れるのである。

ロシア人青年がクルツと出会った頃、恋愛、正義、善行、様々な問題について二人は夜を徹して語り合ったこともあり、その素晴らしい思想や正義感によってロシア人青年はクルツの礼賛者となった。その声の響きはクルツの特徴であり、非常に大きく印象的で、聞く人を圧倒し、彼の持つ精神力の大きさを反映している。その声で、クルツは自作の詩さえもロシア人青年に朗読して聞かしてくれた。

一方、クルツは、その声や精神によって近くの集落の原住民たちの心をも掴まえていた。原住民たちにとってクルツは神のような存在であった。クルツは原住民たちを自分自身の欲望の手段とし、彼等を従えて近隣の集落を襲い象牙を略奪した。クルツは、自分自身の欲望を満たすことしか考えられなくなっていたのである。

「闇の奥」 岩波書店 コンラッド著 中野好夫訳





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