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柳田国男 「遠野物語」

遠野地方に住む佐々木鏡石がその地方に口承にて伝わる話として語ったものを、柳田国男が書に記したものである。素朴で簡潔な文体で、脚色などなく、なるべく語られたままを伝えようと努力したことがすぐに知れる。
山男や山女の話や、マヨイガと言って山中に現れる富の館の話など、様々なものが収められている。一つ一つの話を丹念に見ていくと、物語としても面白いものが並んでいる。
柳田国男によれば、伝説や俗信には必ずや深い人間的意味があるはずである。柳田国男はそれらを根気良く収集し、掘り起こして行ったのである。これらの話を単なる田舎者に伝わる他愛もない話と片付けるのではなく、話が長い年月に渡って伝わっているからには何らかの意味がそこに隠されている、それは何だろうか。「山の人生」において、その一端が考察されていて一読に値するものだと思う。
平地に住んでいる者から、平地での経済的で科学的な基準で、切り捨てられてしまった世界が、当時の遠野にはまだ残っていた。科学的な視点で見たときに、合理性がないと切り捨てられた世界の中に、実は人間の根源に関わる事柄が潜んでいるのではないか。科学的合理性からいうと、幽霊などは全く見向きもされない存在となっているが、しかし、深夜の山奥に一人取り置かれたとしたら何か得体の知れない恐怖を感じるであろう、それは幽霊という説明とは違うかも知れぬが、何か世界の中に感じる恐怖を現していると思う。そのような科学的には分析できぬが、確かに人間が経験している世界が存在しているのだろう。それは、遠野物語のような本を読むときに改めて考えさせられる。

「遠野物語・山の人生」 岩波文庫 柳田国男著