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フィネガンズ・ウェイク 8 ささくれのささやきの

流れるような、耳に心地よい響きの文章も出てくる。心惹かれる文章である。 ささくれのささやきのささめきのさやさやとさわぐささなみの、おお、めぐるひとすじの長く耳ー出アの葦の。そして影が堤をすべりゆき、お暗い伏す歌の、ほの暗い這う歌の、ほの暗い伏す黄昏から黄昏へ、なべて和睦の世の荒地のこのうえなくも陰りに翳りて、川むこうのじきにひとつのにびいろにかわりて。こちら側に婀娜背の水の地、森繁くまばら乱れ咲きて、ごん狐ムックスは音健な目を右顧したが、すべてを聞くことはできなかった。萄獅グライブスは光猾な耳を左眄したが、ほとんど見えなかった。(1巻p298) ムックスとグライブス。 「フィネガンズ・ウェイク」 河出文庫 ジェイムズ・ジョイス著 柳瀬尚紀訳

フィネガンズ・ウェイク 7 不実の不寝番

フィネガンの通夜の不寝番達。 われらが呶物園のライオンがナイルの睡蓮たちを記憶しているように(獅リウスが子リオンを、棒霊が窓リッド出の惑マーゼルらの裸脚を、はたして忘却しようか?)おそらくは、二九まれごとの次第をじゅうぶん帯知したちびりちびらがわれらが頼信胸に封印投函したごとく、籠城の身は年のせいで落ちぶれた己を滅ぼしたあの下隠しの百合リリスたちのことをこっそりひたすら床夢に見て、彼の通夜の不実の不寝番たちに気づかずにおり、彼らはそこにいたのだった。(1巻p150) 不寝番達は、寝ながらの不寝番であったよう。その傍にいたのは誰だろう。 「フィネガンズ・ウェイク」 河出文庫 ジェイムズ・ジョイス著 柳瀬尚紀訳

フィネガンズ・ウェイク 6 歴史の書

フィネガンズウェイクは歴史で一杯である。 歴史が始まる。 かくて、なまくららの風が頁をめくり、陰ノ毛ンティ薄らが穴暮トゥスともつれぎょろ目に法けて皇けているうちに、死業の書の生者の巻の一葉一葉、彼ら自身の年代記は壮大なお国がかりの出来事の円環を時刻みつつ、華石道を通じせしめる。(1巻p37) ここから、歴史の出来事が刻まれていく。 前洪一一三二年、蟻もしくは蟻似絵滅徒に似たる男児らが、か細川に横たわるどっかい巨白鯨の上をさまよう。エブラナの鯨油なまぐさい蘭戦。(1巻p38) 歴史が始まるのだが、物語の中で、ここに至る前に書かれていることは歴史の前に起きていることになる。 前洪とは、ノアの洪水のことだろうか。それよりもずっと昔の話のよう。こうやって解読不能の歴史が繰り広げられていく。 アン歴五六六年このとき、とある鉄面髪の乙女が嘆き濡れた(波だ声悲し!)、というのも大好き人形パピットちゃんを人食い鬼の篤信シンジンブカ鬼に奪い犯されたから。バラオーハクリーの血なまぐさい合戦。(1巻p38) こんどは、アン歴が出てくる。どうもフィネガンの過去とアンの過去が刻まれているようだ。この後のアン歴によると、二人の間に二人の息子が生まれたことが書かれている。二人の歴史が交差して重なり合っていく。 「フィネガンズ・ウェイク」 河出文庫 ジェイムズ・ジョイス著 柳瀬尚紀訳

フィネガンズ・ウェイク 5 妻

アンナ 旗ばた娘だろうが鰭ひら娘だろうが、ぼろ臭だろうが、金うなりだろうが銭乞いだろうが、かまうものか。ああたしかに皆が愛するあばずれアンナ、いやつまり、雨連れアンナ、(1巻p26) フィネガンの妻。 なんと溜めまめしくも美しく、なんと史実な妻、厳格に禁じられているというのに、歴史的現在時製の品々を後期預言書の過去からくすねてきて、われら皆をてんや菓わんやか魚っとするよな御曹子と姫君に仕立て上げようとする。彼女は死財の只中で生流れ、涙さめざめ笑い洗い(なにしろ避忍せぬ歓産婦)、寝プロンを仮面に木靴を蹴り蹴りアリアを歌い(まっサラぁ! どろミファ!)、お望みなら慰搾ってあげる。(1巻p34) 妻のこと。 「フィネガンズ・ウェイク」 河出文庫 ジェイムズ・ジョイス著 柳瀬尚紀訳

フィネガンズ・ウェイク 4 フィネガンの通夜

フィネガンがどうやら死んだらしい。 どどっててーん! どもりんどりと梯子から転落。しょってーん!昇天だ。。がってーん!墳墓に入れマスタバな、主石室に入れましたべな、男が陽婚すると隆リュート長らく憂しがるんで。世界充に見せたいものだ。(1巻p24) どうもそうらしい。そして通夜が始まった。 災図? 墓ってみよう!マクール、マクール、ほうら汝ゃって死んじっちまった?喪苦曜日の燥朝ってのに?満ちまくーりフィラガンの聖油つや艶の通夜に、むせび泣きしゃくりあげた国じゅうの夜多者たち、仰天して寝っくり返り、十二重に溢れだぶれる頌辞を歌った。(1巻p24) この物語はフィネガンの通夜の話のようである。 「フィネガンズ・ウェイク」 河出文庫 ジェイムズ・ジョイス著 柳瀬尚紀訳

フィネガンズ・ウェイク 3 フィネガン

フィネガンのことが出てくる。 棟梁フィネガン、どもり手フリー面相は、裁き人らが士師憤然ヨシュ悪しと民数を記す前から広唐無罫通りのいぐさ明りの奥間った奥間に寝あかに暮らし、あるいはへっレビ野郎は申命賭して姻行重ね(ある醗曜日、こいつはスっターンとばかり桶に頭をずっこんで己が未来を占顔せんとしたのだが、スイフっト振るい抜かないうちに、モーセっぱつまって水が蒸ッと脱出するや、宜熱スの創世酒が残らず飛び埃に及び、どうじゃこいつは、水も酒も五っ書くたな男!)そしてくる年めくる年、この栄地しい違々たる畚セメント家造りは、飲んべえ村で何房川の土手上にえい糞っと屋上屋を重ねていた。(1巻p21) 聖書からの引用がたくさん出てくる。「士師」「民数」「レビ」「申命」「創世」は旧約聖書の名前。「五書」は旧約聖書の一部を指しているよう。「ヨシュア」や「モーセ」はアブラハムの血統のイスラエルの民を継ぐ者。 「水が蒸ッと脱出する」とは、旧約聖書にあるモーゼの出エジプトでの出来事(追っ手に迫られたときに紅海の水が引きモーセ達は逃れることが出来た)を指しているのか。 フィネガンは主人公で、何が書かれいるのかよくはわからぬが、ある村に暮らしていたことがおぼろげに窺える。 「フィネガンズ・ウェイク」 河出文庫 ジェイムズ・ジョイス著 柳瀬尚紀訳