投稿

11月, 2015の投稿を表示しています

志賀浩二 「現代数学への招待」 多様体の魅力

現代数学は、多様体という場の上で展開されているのだという。本書は多様体とは何かを説明しながら、現代数学あるいは数学そのものの意味を考えていく。普通の数学書では、意味を取り上げることは少ない。それは、意味を考えることには著者の主観や意思が入り込む余地があるため、厳密さや客観性を失うことを専門家が気にするためである。しかし、本書は数学の入門者向けに書かれたものであり、著者は大胆に自分が考える多様体や現代数学の意味を簡明に伝えていく。客観性や厳密さが失われることによって誤解や曖昧さを与えてしまう危険があるが、それ以上に入門者に道標を与え数学の深さ面白さや楽しさを知ってもらうことに、著者は重要性を見出している。その精神に本書の一番のがあると思う。 実数の説明から数直線という1次元空間が導かれる。空間は、点の間の距離が導入されることによって、その構造が考察できる。距離が導入されたことで、点の近くにある集合が定義され、集合によって連続やコンパクト性など空間の性質を明らかにできるのである。 距離を抽象化した近さの概念(位相)が説明される。歴史的には長い時間と多くの人々の努力が必要であったようであるが、空間内での距離はいかにして測られるのか、空間内に含まれる開集合こそが距離を与える基本構造とされた。この抽象化の考え方を進めていくと、ある基本性質を満足する開集合によって近さの概念が導入できる。こうして得られた抽象的な空間を位相空間という。位相空間の概念は、幾何学的な概念というよりも、集合の概念に近い。抽象化された要素からなる集合にも近さの概念が導入できて、要素間の遠い近いを定義できるのである。 位相空間は、距離という概念を抽象化しているので、幾何学的な距離空間(ユークリッド空間)以外の多様な集合を含んでおり、それ自体で興味深いものであるが、更にユークリッド空間を考察しようとした場合には位相空間の概念だけでは不足するのである。ユークリッド空間は、単なる近さの概念だけは語れず、もっと深い世界がそこには存在している。 ユークリッド空間を解析しようとするときに近さの概念以外に必要なもの、それは、微分の概念である。著者が直感的な言葉で語っているのだが、距離は空間内のある点の周りに近さの概念を与えるが、微分はそれに加えてある点の周りの深さのようなものを与える。微分で測れるの