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大島末男 人と思想「カール・バルト」

20世紀最大の神学者カール・バルトの生涯とその思想について丁寧に解説した良書である。バルト神学の神髄について解説された部分は、神学の基礎が無い自分に、果たしてどこまで何を理解できたのか怪しいが、そういう初心の者でもバルト神学の魅力に触れることができた。第2次世界大戦の時期、ナチスの脅威が迫ったヨーロッパと言う困難な状況においても、自らの神学に基づいた信念を貫いてナチスに抵抗した活動を実践し、神学者というよりも思想家というのがふさわしいが、理論と実践を実現したその姿には感動を覚える。現代の困難な時代を考えるとき、バルトの思想は我々に勇気と希望を与えてくれるのではないだろうか。 古典的な神学では、プラトン哲学のイデアによって神を理解しようとしてきた。その様な時代には神の存在を疑うことは無かったのである。ところが近世にかけて、デカルトに代表されるように、人間が自己の理性を中心に据えて思考し始めると、確実に存在するものは自己の理性であり、神は実体を伴わない存在へと転落してしまう。神は名称だけのもので、空虚な存在となってしまう。古典的な時代から見ると神と人間の関係が逆転している。それが現代社会に生きる人々の精神世界ではなかろうか。 バルトは、そのような状況で神が確固として存在する神学を築いたのである。それはキリストの出来事を中心に据えて、その視座から神学を確立していく。人間は理性によっては神を知ることはできない。人間は、神の啓示によってのみ、神を知ることができるのである。神の啓示、つまり聖書におけるキリストの出来事である。信仰によってキリストの出来事に触れるとき、隠れていた神と出会う。それは神の呼びかけと、人間の応答である。神からの呼びかけに応答した人間は、自らの殻から抜け出し、神と隣人への愛に生きることができるようになる。 イエス・キリストに出会うこと。そして、イエス・キリストの呼びかけに応えて生きること。 人と思想「カール・バルト」 清水書院 大島末男著