Steinbeck, "East of Eden" (エデンの東) 7 中国人リー

中国人リーは、アダムがカリフォルニアに来たときに料理人として雇われたようだ。リーが物語に登場するのは、サミュエルがアダムから井戸掘りを頼まれてアダム邸を訪れたときである。

サミュエルを迎えたとき、リーはピジン語と呼ばれる片言の英語を話した。例えばこんな調子である。
"Chinee boy jus' workee -- not hear, not talkee"(p.172)
しかし、サミュエルはリーの本当の姿を見抜き、二人きりになったとき、何故そのような話し方をするのかと訪ねた。リーは、ピジン語で話す方がアメリカ社会で生きていくのに便利だからと、その理由を流暢な英語で答える。リーはアメリカで生まれ、高等教育を受けた、哲学を好む知識人であったのだった。

リーは、サミュエルにだけは心を開き、哲学を語った。リーは、この物語の中でキリスト教文化の外にいる知識人として、聖書を語る役割を担っている。一度は双子の命名の時、もう一度はサミュエルとの別れの挨拶の時。カインとアベルの物語を読み解くための重要な役割を演じる。特に、サミュエルとの別れの夜、仲間の中国人哲人達と何年にも渡ってヘブライ語にまで踏み込んで研究をして得られた、聖書の一つの解釈をサミュエルへともたらす。それは人の可能性を示唆する言葉であり、前向きに生きるサミュエルにとって最高の別れの言葉となった。

また、リーは中国人という実際的な役割を持ち、キャシーがいなくなったアダム邸の全ての運営と、双子の養育とを実に立派に全うした。


"East of Eden", Penguin Books, John Steinbeck



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