Steinbeck, "East of Eden" (エデンの東) 6 双子の命名 カレブとアロン

妻に家を出て行かれたアダムは、もぬけの殻となって、ただ生きているだけの人間となった。生まれたばかりのわが子らへの関心もなく、名前すらつけられないまま、双子は中国人雇い人リーに世話をうけることになった。命名されずに数ヶ月も経つということを聞いたサミュエルはアダム邸に乗り込み、アダムとリーと共に双子の名前を考え始める。

三人が双子の名前を考え出す前に辿った道は実に面白い。

三人は、サミュエルの妻リザが渡してくれた聖書を開いて名前を考える。まず、出てきたのはカインとアベルの物語であったのだが、三人はカインとアベルの謎に夢中になる。

何故、神はカインを嫌ったのであろうか。いや、神はカインを嫌ったとは聖書には書かれていない。神はアベルの献げ物を喜ばれ、カインの物には眼をくれなかったとあるが、カインを嫌ったとは書かれていない。神からの愛を受け取れなかったと感じたカインは、激しく怒って顔を伏せた。カインは神の愛を渇望していたのである。

怒りを見せるカインに対して神は言われた。この箇所を日本語の聖書から引用する。
「どうして怒るのか。どうして顔を伏せるのか。もしお前が正しいのなら、顔を上げられるはずではないか。正しくないなら、罪は戸口で待ち伏せており、お前を求める。お前はそれを支配せねばならない。」(日本聖書協会 新共同訳聖書)
最後の「お前はそれを支配せねばならない」の部分は原文で以下のようである。
thou shalt over him. (p.266)
この文章は、物語の後の方で再度リーによって掘り下げられる重要なものである。リーは中国人として、キリスト教文化の外から聖書を読み解く役割を担っている。

アベルを殺したカインには、神から呪われ原罪(sin)が負わされた。こうして人には罪が入ったのである。カインは、神に対して、原罪を自分では負いきれないと許しを哀願するのだが、彼を害する者は7倍の仕打ちを受けるという”しるし”が与えられた上で追われてしまう。

カインとアベルの話がサミュエルによって朗読された時、アダムは、自分自身とチャールズとの関係を連想して叫んでいた。

読者には、キャシーの額には瀕死の重傷を負った際についた傷痕、つまり、”しるし”があったことも思い出されるだろう。

三人は議論に夢中になるが、双子の名前を決めることが出来ずにいた。結局、エジプトから出て無事にイスラエルの地に辿り着いた者カレブ(Caleb)を一人の名前にした。もう一人は、預言者モーゼの兄弟アロン(Aaron)から名付けられた。

"East of Eden", Penguin Books, John Steinbeck



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