魔の山 6 時代の影響

個人が知らないうちにも背負っている時代の影響、それが以下のように書かれている。

私たち人間は、だれも個人としての個人生活をいとなむ だけでなく、意識するとしないとにかかわらず、その時代とその時代に生きる人々の生活をも生きるのである。私たちが私たちの基礎をなしている超個人的な普 遍的な基礎を、絶対的なもの、自明なものと考えて、それにたいして批評を加えようなどとは、善良なハンス・カストルプがそうだったように、考えてもみない としても、そういう基礎に欠陥がある場合に、私たちの倫理的健康がなんとなくそのためにそこなわれるように感じることは、大いにありうることであろう。こ この人間にとっては、さまざまな個人的な目標、目的、希望、将来が眼前にあって、そこから飛躍や活動の原動力を汲みとることもできよう。(p61)
ハンス・カストルプのサナトリウムでの滞在という、事件性のない出来事を描きながら、その時代を描くということ、それは、時代の流れといった時代そのものや、同時代に生きる人々の意識に、一個人が大きく影響を受けているという考えが根底にある。


「魔の山」 岩波文庫 トーマス・マン著 関泰佑、望月市恵訳





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