小林秀雄 「考えるヒント2」 歴史

小林秀雄は、歴史を繰り返し取り上げている。一体、歴史とは何であろうか。著者にとっての歴史とは、人間の出来事の記録、記憶であるように思われる。

人間の歴史は、自然界で生じた事象、例えば地層や化石など、とはまったく別物である。両者は切り離すことはできないが、基本的には別物であるという。歴史は、人間に本質的なものである。人間はその精神世界に歴史という人類全体の遺産を受け継いで生きている。人間にとって意味があって初めて自然は人間と関わりを持ってくる。

私達の歴史に対する興味は、歴史の事実なり、歴史の事件なりのどうにもならない個性に結ばれている。(p.179)
何故であろうか。

過去は過去のまま現在のうちに生きているという、心理的事実に根を下ろしている。

我々は信長という人を歴史資料によって、生き生きとした人物として蘇らせることができる。それは、我々の中に歴史として根を下ろしたものがあって、想像したり共感したりできるのだろう。


荻生徂徠の言葉が繰り返される。

「学問は歴史に極まり候事に候」

歴史を、表面的にしか、つまり過去の客観的な記述あるいは科学的な事実というような浅薄な考えで捉えていたことに気づかされた。歴史とは何かということに結論が出せたわけではないが、少なくとも、自分の表面的な認識では、人間という複雑な存在を捉えきれないということに驚かされた。


「考えるヒント2」 文春文庫 小林秀雄著




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