Steinbeck, "East of Eden" (エデンの東) 4 アダムとチャールズ

アダムとチャールズは、第1のカインとアベルの関係となった。

チャールズは、攻撃的な性格で、運動も出来た。父親のサイラスは、小さな子供たちに軍隊のように歩行訓練などをやらせたが、チャールズはそれをうまくこなした。一方アダムは、うまくやれないばかりか、訓練自体を嫌った。アダムから見ると、チャールズは訓練の優等生で父親のお気に入りだった。

しかし、実はそうではなかった。

アダムだけが軍隊へ入ることになった。入隊の前の晩にサイラスとアダムは散歩しながら語り合った。サイラスは、普段の態度からは想像できなかったが、アダムに目をかけていた。一方チャールズのことは、身体的な能力は評価しても、性格的には評価していなかった。ただ勇敢なだけでは、真の男になれないと考えていた。サイラスとアダムが親しげに散歩から帰ってくるのを目撃し、チャールズの気持ちに鬱積していた感情に引き金が引かれ、アダムへの暴力となって噴出した。鬱積していた感情とは、父親への誕生日プレゼントにまつわることだった。

父親の誕生日に、子供たちは銘々が自分で考えたプレゼントを贈った。チャールズは高価なナイフを、アダムは拾った子犬を贈った。サイラスはチャールズのナ イフを机の中にしまった後、一度もそれを出さなかった。これに対して子犬はいつもサイラスの近くにいて可愛がられていた。

自分のナイフの方が高価であり、軍人である父親にとって素晴らしい贈り物のはずである。しかし、父親がナイフを手に取っているところは一度たりと見受けれられなかった。それなのに、どこかで拾った普通の子犬を父親は可愛がっているのである。

それは、父親の心が、アダムだけを向いていることを暗示していた。チャールズにとって、これは許せないことであった。父親の訓練をよくこなし、何でもアダムより優れている自分こそが愛されるはずであるのに、現実は違った。自分は全く見向きもされないのである。

チャールズは激怒し、アダムを夜の散歩中に襲い、アダムを半死の状態にまで痛めつけた。アダムが上手く逃げなければ死んでいたかもしれなかった。
この事実は、アダムにとっても意外で、驚くべき事態であった。チャールズこそが、父親から愛されていると感じていたのに、自分が愛されており、しかも、その事実によってチャールズから命さえ狙われたのである。

アダムは、カインとアベルの重荷を背負って生きる運命にあった。
"East of Eden", Penguin Books, John Steinbeck



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