スタンダール 「赤と黒」 1 上流階級

スタンダールの「赤と黒」(岩波文庫 桑原武夫、生島遼一訳)を読んでいる。


物語の舞台は、スイス国境に近いフランスのフランシューコンテ地方にある小さな町ヴェリエール(注釈によると空想の町。)1830年代の王政復古の時代。

ヴェリエール町長レナール氏とレナール夫人との会話の中で、主人公のジュリアンがレナール氏の子供たちの家庭教師候補として登場する。ジュリアンは、製板所を営むソレルの末息子である。製板所という家業からすると非常に珍しいことに、ジュリアンはラテン語ができるため、家庭教師候補に選ばれたのである。

レナール氏とジュリアンは雇う側と雇われる側という関係であるが、それ以上に彼らが属している階級を代表している点が重要で、特にジュリアンから見た心理面が描かれていて面白い。

レナール氏は貴族であり上流階級に属する。レナール氏を代表として描かれている上流階級は、金銭と権威だけが関心事で、知的創造性に乏しい、もはや社会を牽引する力が無くしている。

これに対してジュリアンは職人階級に属す。普通ならば肉体労働に一生を費やすところである。(それは、彼の父や兄たちの姿を見ればよくわかる。)しかし、たまたま知人の老軍医から好意を寄せられてラテン語という教育の機会を与えられた。ラテン語を通じて、いくつかの書物を読み、ジュリアンが持っていた大きな精神的エネルギーが貧しさをバネとして開花し、出世という野心にそのエネルギーが注がれることになる。

社会を動かす精神的なエネルギーは上流階級にはないということを、ジュリアンは明確には認識はしていないが、上流階級のことを憎み軽蔑し、心のどこかで感じている。

時代は、ナポレオンが没落した後のことで、ナポレオンの影が物語に色濃く影響を与えている。それは、ジュリアンがナポレオンを崇拝しているにもかかわらず、そのことを隠そうとしていることからもうかがえる。ジュリアンは、ナポレオンが象徴するような「出世」をすることを望むが、ナポレオン没落後に軍人としての出世は望み薄であり、代わって僧侶として「出世」しようともくろんでいるのである。

故郷を嫌い、上流階級を軽蔑し、自身の出世しか考えていないジュリアンが、レナール夫人との恋愛に
落ちていく。最初は自分の野心からでたものであったが、次第に本当の恋愛になっていく。









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