スタンダール 「赤と黒」 7 大貴族

神学校校長ピラール師が、神学校内の敵対する勢力から校長を辞職させられた時、ラ・モール侯爵によってパリ近郊の司祭職を与えられた。ピラール師に可愛がられていたジュリアンは一緒にパリへと出て、ラ・モール侯爵の秘書として仕えることになった。

やっと二人が、このりっぱな部屋つづきのうちで一ばん美しくない部屋へやって来た。わずかに日の光がさしこむか、それさえ怪しいくらいである。そこに、金髪の鬘(かずら)をかぶって、鋭い眼つきをした、小柄のやせた男がいた。師はジュリアンの方を振り向いて、彼に引き合わせた。それが侯爵だった。あまり鄭重な態度なものだからジュリアンはなかなか侯爵とは思えなかった。ブレールーオの僧院で、あんなに高慢な面構えをしていた大貴族の面影はもう少しもなかった。(第2部 第2章)

ラ・モール侯爵は、都会の貴族を象徴している。第1部で出てきたレナール氏という地方貴族と対比されるが、知性、優雅さ、財政など全てにおいて優越している。そのラ・モール侯爵が、ジュリアンのことを気に入った。

「この若僧はものになると思う」と侯爵はアカデミシャンにいった。(第2部 第3章)

侯爵は、彼が根気よく働き、寡言で、頭がいいのを見て重宝に重い、解決の困難な事件を全部まかすようになった。(第2部 第5章)

ラ・モール侯爵は、系図が何世代にもさかのぼれる由緒ある生まれで、大臣にもなろうかという有力者でもあった。自分の意で、人を司祭にしたり大使にしたりできるのだが、そういうこともあって自然とそのサロンには人が集まるのであった。

ラ・モール家のみやびやかなサロンに見出されるものは、すべてジュリアンには物めずらしかったが、また一方黒服をきて青白い顔をしたこの青年は、彼のようなものにまで注意を払ってやろうという方々の眼には、実に変な人間に見えたのである。(第2部 第4章)

こんなおもしろくもない世紀においてすら、娯楽を必要とする力は実に大きいので、会食の日でさえ、侯爵がサロンを去るか去らぬに皆逃げてしまうのだ。神や、僧侶や、国王や、地位のある人々や、宮廷の保護をうけている芸術家や、すべてちゃんと位置のきまったものをばかにしたりさえしなければ、またベランジェや、反政府の新聞や、ヴォルテールや、ルソーや、すべて少しでも率直な物言いを認めるようなことを褒めたりさえしなければ、ことに決して政治のことを話しさえしなければ、どんなことについても自由に議論することができたのである。(第2部 第4章)







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