スタンダール 「赤と黒」 2 ロベスピエール

ジュリアンと社会の関係が知れる一節が第9章にある。

ジュリアンは冷やかに、無上の侮辱を浮かべた眼で、彼女をじっと見た。
この眼つきにデルヴィール夫人は驚いた。もし彼女が、その真の意味を見抜いたら、なお一そう驚いたことだろう。彼女はそこに世にも恐るべき復讐の漠たる希望のごときものを読みとりえたかも知れない。疑いもなく、かかる屈辱の瞬間がロベスピエールのごとき人物を生んだのである。(第9章)

ジュリアンのレナールに対する心理を描いた部分である。この心理は、レナール氏に向けた心情であるが、同時に上流階級への侮蔑でもある。
ロベスピエールを出すことで、ジュリアンの才能や性格や行く末の暗示を感じる。

ナポレオン没落後、ヴェリエールのほとんどすべての家の表構えが改築されたといわれるくらい、一般に暮らしが楽になったのは、ミュルーズ出来と称するまがいのさらさ製造のおかげであろう。(第1章)

とあるように、革命やナポレオンの時代が過ぎ社会は安定し、さらに産業革命がフランスにも訪れようとしており世の中は豊かさを取り戻している。しかし、彼らの豊かさを奪う革命やナポレオンのことを忘れずに恐れており、それらを引き起こすジュリアンのような人間を恐れているのである。

レナール夫人はジュリアンの言葉に、どぎもを抜かれていた。というのは、社交界の人々から、ことにこういう下層階級に生まれて、あまり高等な教育を受けた青年の間から、またロベスピエールのような奴が出るかも知れぬ、とよく聞かされていたからである。(第17章)

僧侶の側でもロベスピエールのような人間に対して同じような考えを持っている。

わたしの母は、この尊いお堂の中で貸椅子屋を世渡りをしていたのだ。ロベスピエールの恐怖政治がきて、わたし達はすっかり貧乏になった。その当時わたしはまだ八つであったが、もうちゃんと信者の宅でミサのお勤めができた。そしてミサの日には、ごちそうになった。わたしは誰よりも上手に、法衣をたたむことができた。けっして飾紐を切ったりすることはなかった。その後、ナポレオンのおかげで信仰が復興された頃から、わたしは、ありがたいことにも、この尊い御本山で万事を切りまわす地位につくようになったのだ。(第27章)







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