スタンダール 「赤と黒」 4 自由主義者

ジュリアンは、貴族的な人々に軽蔑を持っていたが、自由主義者たちにはもっとひどい感情を抱くようになる。

ジュリアンは、収容所所長ヴァルノ氏の邸宅に招待された。ヴァルノ氏は、レナール氏とは対極にある存在である。貧しい生まれから成功し成金になっている、貴族と対立する自由派の代表でもある。収容所所長という立場を利用して公金を横領し、富裕な自由主義者となっているのである。

ヴァルノ氏の邸宅に招待された自由派の人々は、不正を働いてその地位を勝ち取っていた。そこにいる人々の中に、ジュリアンは人間として下品なものを見て取り嫌悪感を抱き軽蔑するのである。

「(ああいやな奴!下品な奴!)と、彼は冷たい空気を呼吸する快感にひたりながら、三四度小声で罵った。」(第22章)

「この瞬間の彼はまったく貴族的になっていた。ながいあいだレナール氏のところで家人からうける礼節の底に、いつも人を馬鹿にした冷笑と尊大な優越感を認めて、あれほど不愉快にされていたそのジュリアンであったが。彼はいま極端な相違を感じないわけには行かなかった。そこを遠ざかっていきながら彼はつぶやくのだ。(たとえ囚人たちから金を盗んでおいて、しかも歌をうたうことすら禁じたということを、忘れてやるとしてもだ!レナール氏がお客にブドウ酒をすすめながら、これは一瓶いくらと一々言ったことがかりそめにもあっただろうか。あのヴァルノといったら、持物の地所を列挙する時に ー しょっちゅう話がそこに行くのだが ー そのときに細君が傍にいると、自分の家や土地のことを、「お前の」家、「お前の」土地と言わずにはしゃべれない。)」(第22章)

「なんという人々の集りなんだろう。彼等が不正なことをしてえているすべてのものの、その半分をくれるといってもおれはあんなやつらといっしょに生活することは御免だ!いつかおれの本性のばれる日がある。彼らにたいしてきっと感じる侮蔑感を外に出さないで辛抱することができないだろうから。」(第22章)









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