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シャルルマーニュ伝説 1 シャルルマーニュ

中世ヨーロッパのフランク王国の国王シャルルマーニューー日本ではカール大帝と呼ばれることが多いようだーーにまつわる伝説を集めた物で、中世騎士物語のスタイルを取っている。フランク王国は、古代ローマ帝国が滅亡した後、今のフランス・ドイツ・イタリアの大半に位置するところに興った国で、西ヨーロッパ諸国の源の一つのような国である。シャルルマーニュは、フランク王国の最盛期に現れ、国威も文化も高めた国王であった。 この本の中で取り上げられている中世騎士物語は、そのような実在するシャルルマーニュとは直接には関係なさそうな破天荒で愛嬌のある物語である。フランク王国を隆盛に導いた武勲と文化振興からイメージされる知的で厳しく威厳のある人物とはかけ離れたシャルルマーニュが物語には登場する。 シャルルマーニュを取りまく、その他の登場人物達も、生真面目で信仰深いが、どこか間の抜けたような性格の者ばかりである。確かに、英雄が揃い、腕に自信のある強者ばかりが集まっているが、物語はどこか間が抜けていて愛嬌のある筋が展開される。 「シャルルマーニュ伝説」  講談社学術文庫  トマス・ブルフィンチ著 市場泰男訳 

ジェイムズ・ジョイス 「フィネガンズ・ウェイク」 30 えんえん

長く不思議な物語も終わりの言葉へと導かれていく。 やってくる、とおくからおとうさんが!ここで終わり。ではわたしたちを。フィン成ーれ、また!取って。あなたのやさしいくちづけを、わたしのわたしの思い出に!幾千の果てまでも。くちび。の鍵を。わたしたの与!ずーっとひとすじにおわりのいとしいえんえん(3・4巻p466) 英語の原文では、最後の言葉が物語の最初とつながっていて、円環のように終わりなく延々と続くことが表現されている。だから柳瀬訳は最後が「えんえん」。ふたたび最初から始まって延々と物語は続いていくのである。 「フィネガンズ・ウェイク」 河出文庫 ジェイムズ・ジョイス著 柳瀬尚紀訳

ジェイムズ・ジョイス 「フィネガンズ・ウェイク」 29 ありしごとくあれかし

ありしごとくに。一度何かちがうものに変わってしまった自分が再びありしごとくに戻るとき。 だが以然にありしいかなる体もここに現存せず。ただ秩序のみ他化され。無の無 化されて。ありしごとくあれかし!(3・4巻p433) 正岡子規の短歌にある「われならなくに」という言葉を思い浮かべた。ちょうど「ありしごとくに」という表現と対をなすような言葉だから。 「フィネガンズ・ウェイク」 河出文庫 ジェイムズ・ジョイス著 柳瀬尚紀訳

ジェイムズ・ジョイス 「フィネガンズ・ウェイク」 28 われらは過ぎゆく

おびただしい亜地亜の灰墟から起き立ちてもう猛もく墨、纏てん炭たんくすぶるとき、不寝寝眼の目覚めるごとく。 過ぎゆく。一。われらは過ぎゆく。二。眠りからわれらは過ぎゆく。三。覚醒の紆廻戦の世へ眠りからわれらは過ぎゆく。四。きたれ、刻よ、われらが自刻!(3・4巻p424) 「フィネガンズ・ウェイク」 河出文庫 ジェイムズ・ジョイス著 柳瀬尚紀訳

ジェイムズ・ジョイス 「フィネガンズ・ウェイク」 27 雲のなかに消え去るみたいに

あの人がわたしたちを雲のなかに消え去るみたいに見ていたのを思いだします。あの人が汗どこ脇で目覚めたとき許してあげるのでした。金欣髪らつ、わたしは天に地かってです。(3・4巻p438) イエスが天に向かって雲の中に消え去ったように、あの人はいなくなった。 「フィネガンズ・ウェイク」 河出文庫 ジェイムズ・ジョイス著 柳瀬尚紀訳

ジェイムズ・ジョイス 「フィネガンズ・ウェイク」 26 見よ、彼が戻ってくる。

IV巻では、女性の語りになる。 子供が、実の子が、いろんな記憶名で既知られていたのが(ちゅんちゅん)、たぶん最近の、ひょっとして遠くの年に攫われちゃったらしかった。それとも呪文の早業で消えちゃった。うまいものだよレモンの乙よ。(3・4巻p400) 見よ、彼が戻ってくる。再生祖生。フィンぐり返った化身。(3・4巻p400) 子供が攫われて消えてしまう、と語り始めるのは母親、聖母マリアを暗示しているのだろうか。 そして、その子は蘇って帰ってくるのである。 「フィネガンズ・ウェイク」 河出文庫 ジェイムズ・ジョイス著 柳瀬尚紀訳

ジェイムズ・ジョイス 「フィネガンズ・ウェイク」 25 青息の世へ

聖寂!聖寂!聖寂! 黎明の丘陵へあまねく呼ばわる。今日の昇る黎明の丘陵へあまねく呼ばわる。美光よ!蘇りよ!アイルのアイアウィーカーが青息の世へ。(3・4巻p395) あの鳥の生きうつしの徴なりうるものへ。あまたなる事の葉を探せ。東方のえいちしいいいにオシアニアへと霞む。(3・4巻p395) 「フィネガンズ・ウェイク」 河出文庫 ジェイムズ・ジョイス著 柳瀬尚紀訳