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ニーチェ 「ツァラトゥストラはこう言った」 

ツァラトゥストラにおいてニーチェは、「超人」と「永遠回帰」という彼の大きなテーマが述べられている。 カントが、神の存在は理性の対象の外にあると言った時に、ニーチェにとって「神は死んだ」。 一切を見た神、人間そのものをも見た神。このような神は死なねばならなかった!人間は、そのような目撃者が生きていることに耐えることができない。 至高の存在が無くて、人はこの世を肯定的に生きていくことは難しい。人生の苦悩の意味は神が与えてくれていたからだ。神がいなくなった社会の市民が平等の海の中で溺れているのを見ればそれが確認できる。市民は「おしまいの人間」へと成り下がった。心の拠り所となるべき核心が無い世界。苦悩に満ちている人生から目を逸らし、束の間の快楽に耽るしかない、そんな惨めな生き様である。 神が占めていた空間を補うためには、超人がなくてはならない存在であったのではないか。だが、その超人が何者であるのか。それは定かでない。 この世を超越した神が天に存在したのと違い、超人は大地の中にいる。 この世は悲痛で陰鬱なことに溢れており、人生に目的などなくただ空しいものであるという厭世的な考えに対して、ニーチェは「永遠回帰」でもって肯定的な答えを与えようとしているのではないか。 人生が一つ違わず完全に幾度も繰り返されるとしたら。 あなたがたは一切をもう一度くりかえすことを欲するか。 苦悩に満ちた人生に、至福のときが一瞬といえども無ければ、この問いに肯定的に答えることはできない。ニーチェは、神がいなくなった人生をも全く肯定しているのである。なんという偉大な精神であろうか。 「ツァラトゥストラはこう言った」 岩波文庫 ニーチェ著 氷上英広訳