魔の山 16 従兄ヨーアヒム

ヨーアヒムは、士官候補生であったが、病気のためにサナトリウムで療養を黙々と続けていた。軍人らしい几帳面さと真面目な性格で、誰からも好かれる好青年であって、健康を取り戻して軍隊に入るために、実直に療養生活を送っていた。他の病人たちが医師たちの目を盗んでは課せられた療法をさぼって遊びに出たりしても、ヨーアヒムは自らを律して規律を守り黙々と療法を続けていた。

物語の中で、文化人としてのハンス・カストルプとの対比で軍人ヨーアヒムが置かれている。

ヨーアヒムは、自身の病状が好転せず、医師から帰国の許可が出ないのに業を煮やし、とうとう自ら決心してサナトリウムを出発する。ハンス・カストルプは一緒に出ることもできたのだが、自らサナトリウムに留まることを選択する。

サナトリウムを抜け出したヨーアヒムは士官候補生として軍隊に入り、鍛錬期間の後、少尉へと昇進する。そのころまでの消息は、ヨーアヒムからの手紙によってハンス・カストルプへと知らされた。ところが、数ヶ月後、ヨーアヒムは容態が悪化し、再びサナトリウムに戻ってきてしまうのである。多くを口にしないヨーアヒムの気持は、態度や表情として描かれているが、士官としての役割を果たせず療養生活に戻ってしまった悔しさが強く出ている。

「魔の山」 岩波文庫 トーマス・マン著 関泰佑、望月市恵訳




コメント

このブログの人気の投稿

フレイザー 「金枝篇」 ネミの祭司と神殺し

ヴォルテール 「カンディード」 自分の庭を耕すこと

安部公房 「デンドロカカリヤ」 意味の喪失