魔の山 15 イエズス会士

散歩の議論の数日後、従兄弟たちはナフタの下宿を訪問した。

貧弱な下宿は、仕立て職人ルカセクの店であったが、その中のナフタの部屋は、絹で覆われた豪奢なものであった。部屋の調度品をいくつか数え上げると、金具の付いた円卓、バロック式の肘掛け椅子、バロック式のソファ、マホガニーで作った書棚、カーテンも家具を覆うカバーも絹であしらえてあった。

ナフタは従兄弟たちを迎えて精神が高揚したのか、ナフタの議論は加熱していく。彼の主張は、散歩の時よりもさらに激しさを増していく。ルネサンスや自由を否定し、民族国家や資本主義経済を否定した上で、神の目的のためのテロにまで言及するのである。

ナフタの部屋を辞した後、セテムブリーニの口から、ナフタは清貧で知られるイエズス会士であることを教えられる。

しかし、ナフタには、眉をひそめさせる何かいかがわしいものを感じさせる。清貧さを心情とするイエズス会士でありながら豪奢な暮らしをするコントラスト、その狂信的な信仰。

「魔の山」 岩波文庫 トーマス・マン著 関泰佑、望月市恵訳




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