コンラッド 「闇の奥」 1

「闇の奥」 岩波書店 コンラッド著 中野好夫訳

ロンドンのテームズ川、船の上で暇つぶしをする男たちに、船乗りマーロウは、自身が過去に行ったアフリカの奥地の話を始める。テームズ川の連想から出てくる遠くローマ人のことやイギリスの輝かしい船長たちの名前ーーこれらは少し読み進むと出てくる未開の地の河と、古くから文明の中にあるテームズ川との対比が示されている。

マーロウは、アフリカの奥地に行くことを思いつき、ある船会社を訪れる。会社の入り口に二人の女が座っているのだが、これからマーロウが向かうアフリカへの旅を暗示するかのように暗い雰囲気を漂わせていた。

奥地へ行ってからも、またしても僕はこの二人の女のことを思い出した、まるで暗い棺衣にでもするつもりか、一心に黒い編み物をしながら、「闇黒」の門を衛っている女、呑気な、お人好しの若者たちを、次から次へと、一人はたえず未知の国へ案内しつづけている、そして今一人は、例のあの冷ややかな視線を挙げては、一人一人その顔を観察しつづけているのだ。(p20)

会社と契約したマーロウは、船に乗りアフリカへと向かう。その旅路から既に、心浮かなず、憂鬱な気持をマーロウに抱かせていた。しかし、生気に満ちた黒人たちの姿を見た時、いくらかは心が紛れることもあった。それも長続きはしなかったのだが。

顔は奇怪な仮面をそのままーーだが、彼等にも骨格、筋肉、そして激しい生活力はあるのであり、その激しい活動力は、あの岸に寄せる波のように、自然であり、そして真実でもあるのだ。ここでの彼等は、完全に存在の理由をもっている。眺めているだけでも、大きな喜びだった。だが、それも長くはつづかない。(p26)

これから向かうアフリカで経験する何かを暗示させる旅路だったわけである。

が、僕の胸には、妙に漠然とした、そしてなにか胸でも圧えられるような驚異が、いつもまにか、大きくひろがっていた。いわば悪夢の予兆の中をわけ入るとでもいうような、物倦い遍歴の旅だった。(p28)

そして、目的とする河の河口に辿り着いたのだった。






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