フィネガンズ・ウェイク 6 歴史の書

フィネガンズウェイクは歴史で一杯である。
歴史が始まる。
かくて、なまくららの風が頁をめくり、陰ノ毛ンティ薄らが穴暮トゥスともつれぎょろ目に法けて皇けているうちに、死業の書の生者の巻の一葉一葉、彼ら自身の年代記は壮大なお国がかりの出来事の円環を時刻みつつ、華石道を通じせしめる。(1巻p37)
ここから、歴史の出来事が刻まれていく。
前洪一一三二年、蟻もしくは蟻似絵滅徒に似たる男児らが、か細川に横たわるどっかい巨白鯨の上をさまよう。エブラナの鯨油なまぐさい蘭戦。(1巻p38)
歴史が始まるのだが、物語の中で、ここに至る前に書かれていることは歴史の前に起きていることになる。
前洪とは、ノアの洪水のことだろうか。それよりもずっと昔の話のよう。こうやって解読不能の歴史が繰り広げられていく。
アン歴五六六年このとき、とある鉄面髪の乙女が嘆き濡れた(波だ声悲し!)、というのも大好き人形パピットちゃんを人食い鬼の篤信シンジンブカ鬼に奪い犯されたから。バラオーハクリーの血なまぐさい合戦。(1巻p38)

こんどは、アン歴が出てくる。どうもフィネガンの過去とアンの過去が刻まれているようだ。この後のアン歴によると、二人の間に二人の息子が生まれたことが書かれている。二人の歴史が交差して重なり合っていく。


「フィネガンズ・ウェイク」 河出文庫 ジェイムズ・ジョイス著 柳瀬尚紀訳





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