Steinbeck, "East of Eden" (エデンの東) 1 サリナス

物語は、カリフォルニアのサリナスを舞台に二つの家族を描きながら、人生の深い意味を探ろうとしている。アイルランド移民であるサミュエル・ハミルトン一家と、東部から来たアダム・トラスク一家という二家族の群像が描かれている。

サリナスは、サンフランシスコの南にある谷間に存在する街である。穏やかな気候と土壌に恵まれ、灌漑できれば豊かな稔りが約束される場所であった。
The Salinas Valley is in Northern California. It is a long narrow swale between two ranges of mountains, and the Salinas River winds and twists up the center until it falls at last into Monterey Bay.
サミュエルはアイルランド移民1世でサリナスに住み着いた。移民サミュエルが得た土地には水が出ず、生涯豊かな暮らしとは縁がない人であったが、好奇心と知的探求心に富み、ユーモアがあって快活でへこたれない性格をもった人でもあった。著者スタインベックの母方の祖父に当たる人で、祖父母やその子等が逞しく生きた様を描くことで、人生とは何かを探ろうとしているように感じられる。そこには、著者からの家族への愛情溢れる文章があるとともに、彼らを通じてその時代全体の描写が書かれている。

アダム一家についていうと、「エデンの東」や「アダム」という言葉が示すように、旧約聖書が提示する問題がモチーフとなって、複雑な人格とそこに生じる事件を通して人生の意味とは何なのかが読者に問われているように感じられる。深いテーマや重苦しい事件に、彼らの担っている重荷が意識される。それは、我々人間が担っている重荷(原罪)を象徴している。

サミュエルの明るく前向きな生き様は、アダムの重荷を目のあたりにして苦しむ登場人物達や、読者までにも、光を与えてくれる。

生きるとは何かという大きなテーマを扱った名作であると思う。

"East of Eden", Penguin Books, John Steinbeck



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