シェイクスピア 「マクベス」 4 洗い落とせぬもの

マクベス夫人は、大事にあたって弱気を見せるマクベスに対して、怖じ気づいたことをそしり凶行へと背中を押すほどの気丈な女性であった。それほどの精神力をしても、正統な王を殺害した罪の重荷から逃れることは出来ることはなかった。

夫人は、夜な夜な夢遊病者そのままに、眠ったまま起き上がって書棚に向かって手紙を書いた。手をこすり合わせて呟く。

消えてしまえ、呪わしいしみ! 早く消えろというのに! 一つ、二つ、おや、もう時間だ。地獄って何て陰気なんだろう! (p102)

まだ血の臭いがする、アラビアの香料をみんな振りかけても、この小さな手に甘い香りを添えることは出来はしない。ああ! ああ! ああ!(p103)

夫人の侍女に請われて夫人の様子を見た侍医は、マクベス夫妻が為した罪の全容を知り、夫人が背負っている罰の重さを感じて、堪えられなかった。
なんという溜息だ! 心の重荷がそのまま伝わるような!(p103)
まさしく、心に負った重荷が伝わってくるようである。背負った重荷は永遠に消えることはなく、重荷を負って生きる運命を自ら選択してしまったのである。血は罪のしるし。消そうとしてもそれは出来ぬものである。それは罪を悔いて贖わない限り消えぬものである。マクベスにも夫人にも罪を悔いて贖うことが出来なかった。それも運命なのであろうか。


「マクベス」 新潮文庫 シェイクスピア著 福田恒存訳



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