J.K.Rowling, "Harry Potter and the Philosopher's Stone" (J.K.ローリング 「ハリーポッターと賢者の石」)

ハリーは、両親とは死に別れ、自分が魔法使いであることを全く知らずに、伯母の家に預けられて、大切にしてもらえずに育った。伯父も伯母も極めて普通の人で、普通ではないことをひどく嫌っていた。だから、二人は、ハリーが普通でないことつまり魔法使いの血を引いていることをハリー本人にも誰にも知られたくなかった。魔法学校Hogwartsから入学許可の手紙が来たときにも、二人は手紙を捨てたし、魔法のようにどこまでも追いかけてくる手紙から必死で逃げた。しかし、それは無駄であった。

ハリーは、魔法学校へ入学し、様々な階層(魔法使いの血筋や普通の人間など)から集まってきた愉快な友人達と個性的な先生達に囲まれて魔法を学び始めた。魔法の杖、空飛ぶ箒、魔法の呪文、魔法の鏡、様々な生き物、何から何まで新しいことばかりであった。

あるとき、ハリーと友人のロンは、先生達が何かを隠していることに気がついた。隠されていたのは不老不死の薬、賢者の石、であった。しかも、賢者の石は誰か正体不明の者に狙われている。主人公とともに読者も一緒になって謎を追いかけていく。


規則を破って深夜に学校を徘徊していたハリーが寮監に追われて逃げ込んだ物置部屋で、ハリーが魔法の鏡を覗き込む場面は、美しくも緊張に満ちた描写である。ハリーは鏡の中に死んだ両親の姿を認める。何か禁断のものに魅入られて離れることができない、妖しい雰囲気である。この鏡が結末で大きな役割を果たすのも面白い。

先に起こった些細な出来事の描写は後段になって結末を左右する大きな意味を持つ、そのような物語の仕組み(構成)に気がつくとき、一つ一つの描写を注意深く読むことが読者にとっては大きな意味を持ち、それは大きな魅力を与えてくれるのである。全ての出来事は必ず何かの意味を持っている、まるで本当の人生を生きているかのようである。

他者と打ち解けることができないハーマイオニーと、ハリーもロンもまだそれほど仲良くなかった頃に、トロル(Troll)に襲われたハーマイオニーを二人が助ける場面がある。ハリーとロンは、自らの危険も顧みずハーマイオニーを助けに出かける。まだ魔法をほとんど使えない二人にはトロルと闘うのは困難なことであったが、トロルをしとめることができた。しかし、規則を破ったことで先生から罰を受ける二人を、普段なら規則にうるさいハーマイオニーがかばってくれた。こうして三人は真の友人となることができた。

There are some things you can't share without ending up liking each other, and knocking out a twelve-foot mountain troll is one of them.

それを分かち合うことによって初めて互いを理解しあえるような、そんな何か大切なことが人生にはある。この物語を読むことで、著者と読者も、あるいは読者同士も、ハリー達と同じように何か大切なことを共有できると思う。


"Harry Potter and the Philosopher's Stone", Bloomsbury Publishing PLC; Signature ed版, J. K. Rowling 

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