ダン・ブラウン 「ダ・ヴィンチ・コード」 イエスの伝説

ルーブル美術館館長が殺害され、謎のダイイング・メッセージが残された。それは、次から次へと連鎖する謎への糸口、つまり謎を解くとその答えは新たな謎を指し示していた。館長は中世ヨーロッパから脈々と続く秘密結社に関わっており、残された謎を解くには、中世ヨーロッパに培われたキリスト教にまつわる象徴を知らなければならない。

中世ヨーロッパにおいては、全てのものは何かの象徴として解釈され、それは反復して象徴の連鎖を作った。象徴が最後に行き着く先は神であった。神に関することを象徴によって隠していることもあった。物語の進行とともに、中世の象徴世界に入りこむことになる。シオン修道会、テンプル騎士団、メロヴィング王朝、聖杯、たくさんの耳新しい言葉とそれにまつわる秘密、ヨーロッパキリスト教世界の裏側を垣間見るのは実に新鮮で刺激的である。


物語はイエスに関する伝説を扱っているということで、有名になったようであるが、それほど騒ぎ立てることでもないと感じた。説得力のある証拠が提示されているわけではなく、様々な伝説を一つの筋に纏め上げあり、普通に物語を楽しみ、象徴に隠された意味を学ぶのが良いと思う。

たしかにローマの聖職者は固い信仰を持っているから、どんな嵐も乗りきれるし、たとえおのれの信じるものと完全に矛盾する文書が現れても動じまい。(62章)

ローマのカトリック聖職者のような深い信仰に至らないにしても、自分の信念のある人であれば、この物語を読んだとしてもその人の信念が揺らぐようなことが書かかれているようには思えなかった。むしろ、キリスト教世界の歴史や人間模様を知ることができるのではなかろうか。


ダ・ヴィンチ・コード 角川書店 ダン・ブラウン著 越前敏弥訳






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