Steven Pinker, "The Stuff of Thought" 1 生まれながらにして言葉の人

ハーバード大学心理学部の教授スティーヴン・ピンカーによる言語学と認知科学に関する著作である。扱っている題材は非常に高度であるが、ピンカーによって明快で簡略に、そして面白く説明されていき、読んでいて全く飽きが来ない優れて知的な本である。

ピンカーが言語学に取り組むのは、言語が人の本性を明らかに見せてくれる窓のような役割を果たすと彼が考えるからである。言語を研究していくと人の思考方法が分析できるようになるのだが、それだけではなく人が先天的に持っている能力、思考・言語の枠組みのようなものが見えてくるのである。

何故人は言葉を話せるようになるのか、それは人が生まれながらにして言語の枠組みを有しているからである。まっさらの状態で生まれた子供が、親や周囲の者たちが会話する言葉を聞きながら母国語を習得していくが、その裏には言葉一つ一つの意味を掴み取りし、さらに言語の持つ文法規則を理解する必要がある。この能力を人は生まれながらにして持っているというのである。であるから、子供が生まれた時には既にまっさらの状態ではなく、特定の言語は持っていないが、言語を理解するための枠組みを持っているのである。

これは実に驚くべき事実である。人は生まれながらにして言葉のものである。まさに感嘆するしかない、心を揺り動かされる考えである。

たとえば九官鳥のような動物は人の言葉に似たような発音をすることができたとしても、文法を理解することはできない、それは動物には言語の枠組みがないからである。

この考え方には哲学の裏づけがあり、それはカントにまで源を辿ることができる実に奥深いものである。人には生来備わっている a prioriなものがあるのだと。いったいいくつのa prioriがあるのだろうか。

"The Stuff of thought", Steven Pinker, Penguine Books,



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