Norton Juster "The Phantom Tollbooth"(ノートン・ジャスター ファントム・トールブース) 言葉と知恵の秘密

全てのことに興味を持てず、何をするのも億劫で、退屈な日々を過ごしていた普通の少年Miloは、彼の部屋に現れた料金所(Tollbooth)から不思議な世界へと続く道を旅していく。Miloが旅へと出かけたのは、他にすることがなかったからであった。

Miloの前に現れるのは、言葉と知恵が人や生き物の形をとって生き生きと活動する世界であった。Miloは時計が体にくっついているWatchdog(番犬、時計の犬)のTockとともに旅をする。

言葉が溢れる町Dictionopolis(辞書の町)に着いたMilo達は、警官Shrift(懺悔という意味)によって地下牢に送られる。地下牢には魔女(Witch)がいると教えられていたが、そこにいた老女は自らのことをOfficial Whichと名乗る。Official Whichとは、言葉の国で、どの言葉を使うべきでどの言葉を使うべきでないかを決める役職であった。彼女の本当の名前はMacabre(死、気味が悪いという意味)といった。Macabreは彼女が地下牢に幽閉されている理由と言葉の国の治世がうまくいっていない原因を教えてくれた。

その世界にはDictionopolisとDigitopolis(数字の町)があり、それぞれを統べる王Azaz(AからZまで)と王Mathemagician(数学魔術師)がいる。実はこの二人の王は兄弟で、王にはRhyme(韻という意味)王女とReason(理性という意味)王女という姉妹がいて、彼女達が王国に起きた全ての問題を解決してくれていた。しかし、AzazとMathemagicianは、次第に互いに競い合い反目しあうようになり、仲裁に入るRhymeとReasonが公平でどちらの王にも偏らないことに腹を立て、RhymeとReasonをCastle in the Air(空の城)という牢に幽閉してしまう。二人の王女がいなくなってから、国の治世はおかしくなってしまったのだった。

二人の王女を救い出せば、国は元のように素晴らしいところに戻り、Macabreも地下牢から出られると聞いて、MiloはTockとHumbug(ペテン師という意味)の3人で王女達を助け出すために出かけていく。

Castle in the Airへの旅は新しい冒険や発見で一杯である。Colorful Symphony(彩りの交響楽)の指揮を取ってみたり、音が無くなった谷で魔女から音を盗み出したり、Island of Conclusions(結論の島)では理由もないままに結論を急ぐと苦労することを身を持って学び、DigitopolisではMathmagicianから無限の不思議を見せられる。最後に沢山の魔物が住む山を通り抜け、魔物たちに追われながら必死に階段を駆け上ってCastle in the Airへと辿り着くことができた。

Rhyme王女とReason王女は、彼女達を助けに来てくれた勇気あるMiloに対して感謝とねぎらいの言葉を優しく語りかけてくれる。

"And remember also," added the Princess of Sweet Rhyme, "that many places you would like to see are just off the map and many things you want to know are just out of sight or a little beyond your reach. But someday you'll reach them all, for what you learn today, for no reason at all, will help you discover all the wonderful secrets of tomorrow." (p.234)

Rhyme王女とReason王女は、言葉と知恵の秘密をそっと教えてくれた。Miloが何に対しても興味が持てないのは、Miloが本当に求めているものが今は手の届かない視界の向こう側にあるからであって、いつか必ず自分のやりたいことや求めていることが見つかると。

この冒険で言葉や知恵の秘密を知り、勇気を出すことや必死に問題へと立ち向かうことを経験したMiloは、成長を遂げることができたであろう。もう世の中が退屈でつまらないものではなく、素晴らしい秘密で満ちたものに見えるはずである。

愉快で暖かい印象を与える沢山のイラストが掲載されており、物語のイメージを大きく膨らませてくれる。巻頭に付いている地図を見ながらMiloの冒険を辿るのも楽しい。


"The Phantom Tollbooth", Yearling Book, Written by Norton Juster, Illustrated by Jules Feiifer, With an appreciation by Maurice Sendak





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