Steinbeck, "East of Eden"(エデンの東) 20 カレブへの祝福

アダムの許に戦場からアロンの訃報が届いた。それがきっかけとなりアダムは脳出血で倒れ寝たきりに近い状態になってしまう。アロンの命、アダムの健康、それらを損わせた原因が自分にあると考えているカレブには堪えられなかった。カレブは自分を責め続けた。

"I did it," Cal cried. "I'm responsible for Aron's death and for your sickness. I took him to Kate's. I showed hime his mother. That's why he went away. I don't want to do bad things -- but I do them." (p593)

カレブは、何も言わないアダムの目が、アロンの死のことで自分を責めていると感じた。カレブは父に見放されては行く場所はなかった。生きていけなかった。リーは否定する。

リーは、カレブと共に、アダムのベッドに行くと語り始めた。カレブはアダムから拒絶されたと感じてアロンへの仕打ちを為した。それは彼が為した罪ではあるが、彼一人で堪えられるような罪ではない。拒絶によって彼を破滅させないで。アダム、どうか彼に祝福を与えて欲しい。祝福で彼を支えて欲しい。

ほとんど動けないアダムにとって至難の業であったが、アダムの右手が静かに持ち上がり、そして下に降ろされた。祝福の仕草である。リーがアダムの口元に耳を近づけるとアダムの口がかすかな言葉を出した。

"Timshel!"

道は開かれている。祝福が為されて、カレブは罪から解放されるのだった。

なんと力強く美しい物語であったことか。自分の背負う罪の重さ、真の自分に向き合うことの難しさ、罪を乗り越えて生きていくことが出来ることの素晴らしさ。生きると言うことは何なのかということを振りかえらさせてくれた物語であった。深く重い主題ではあるが、著者の暖かな視線と前向きな思想が物語を包み込み、読む者に勇気を与えてくれているように感じる。

"East of Eden", Penguin Books, John Steinbeck
 

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