モンテスキュー 「ローマ人盛衰原因論」 

ルイ14世のフランス王制時代に生きたモンテスキューは、古代ローマの盛衰に関する歴史を持って自らの政治への姿勢を語っている。

ローマが大国へと成長することに導いた政治的制度は何であったのか、ローマの成長期に戦った国々はローマの成長にいかなる意味があったのか。

ロムルスによって作られたと伝説が語るローマは、草創期には王によって治められていた。王の地位は世襲されず、代々選ばれて王となった。ローマは、人民や土地や女性を得るために常に近隣の民族と戦いを続けた。最後の王となったタルクィニウスは元老院にも人民にも推薦されず王となったが、息子の不祥事で失脚したとされる。この後、ローマは、王制の危うさに気付いて政体を変え、貴族による共和制を敷いて、任期1年の執政官(コンスル)を置いた。モンテスキューはこの政治制度改革がローマをあのような偉大な地位に押し上げた原因として高く評価している。


王など永年に渡ってその地位にある君主は、生涯のある時期は野心的で旺盛に政治活動したとしても、ある時期には他の情熱や怠惰にさえ襲われてしまうものである。一方、任期1年の執政官はその任期中に成果を上げて次の官職を得ようと必死に政治へ情熱を傾けるし、毎年野心的な人材がその地位を占め、政治が1年と無駄に為されることはなかった。共和制には政治的な自由が必要である。こうしたことが、ローマを強大化させる原動力の一つとなった。

ローマは商業を持たず、略奪が個々人に富をもたらす唯一といってもいい手段となった。戦利品は共有物として分配された。戦争によってしか国を維持できないローマは、共和制に移行した後も、近隣の民族(エトルリア人、アエクイイ人、ウォルスキ人、ラテン人、ヘルニキ人、サムニウム人など)と戦い続け領土を拡大させていった。

ローマ人は、戦った相手が制度の恩恵からあれ自然の恵みからであれ有している特殊な利点を見つけると、それらの利点を自分達に取り込んでいった。ヌミディアの馬、クレタの射手、ロドスの船などである。こうして戦いながら更に強くなっていったのである。

ローマでは土地が均等分配されていたことも見過ごせない。社会には規律が生まれ、市民は祖国の防衛に強い関心を持って軍隊に参加した。モンテスキューの時代には軍隊は人口の100分の1の割合であったが、ローマでは8分の1という非常に高い割合であった。

ローマ人がイタリア半島から大きく飛び出していくときにぶつかった相手は、ガリア人、マケドニアのピュロス王、カルタゴであった。特にカルタゴとの第2次ポエニ戦争は、カルタゴの将軍ハンニバルの初期の攻撃によって本国内においてローマ軍は打ちのめされたにもかかわらず、数年に渡って粘り強く抵抗しついにはカルタゴを屈服させたことで有名である。この戦争においても、政治制度が機能した。王制の国であれば、主力軍が本国内で壊滅した場合、すぐに降伏するであろう。しかし、ローマの共和国の指導者達は原則を貫き、自分達が滅亡しようとも、決して自分達が不利になる講和はしなかったのである。

ローマが対外的に戦っている間にも、国内では常に貴族と平民の間に政治的な対立が生じていた。王制から貴族的な共和制へ移行した後、執政官は貴族だけのものとなっていたが、平民は政治的な自由を求め、平民政務官を定め執政官の地位を低くした。ローマでは権力を獲得するために、位階や家系は利点とならず、権力は大多数者の手に渡り、貴族政体は次第に民衆政体へと移行していった。自由な政府は、その固有の法律を通じて自ら矯正してゆく能力を持っていなければ
存続できないと、モンテスキューは言う。ローマには人民の精神、元老院の力、幾人もの政務官の権威によって、権力の濫用を是正できるようにしていた。

ローマが地中海世界を統一し覇者となったとき、ローマには内乱が生じた。本国を遠く離れて異国で戦い続ける軍隊は、最早共和国の軍隊というよりは軍団を率いる将軍の軍隊となっていた。スラ、マリウス、スポンペイウス、カエサルの軍隊である。しかも、本国を遠く離れて戦う将軍は、本国を別の視点で見るようになり、最早共和国に服従しなくなってきた。ローマを強国に押し上げるのに役立った法律が、ローマが強大になってしまった後ではローマを機能不全に陥らせた。こうしたことがローマを衰退させた原因であるとモンテスキューは言っている。

スラとマリウスは激しい内乱を戦った。その後、ポンペイウス、カエサルが戦い、カエサル暗殺後にオクタビアヌスが帝政へと政体を変えていくのである。ローマは政治的に自由であったがために、内乱状態を収束させることができず、帝政でなるまで平和は訪れなかった。しかし、モンテスキューは帝政を肯定はしていない。


「ローマ人盛衰原因論」モンテスキュー著 田中治男・栗田伸子訳



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